昔、大学の入試で、若い自分はこんなふうに聞かれました。
「一番描きたいものは何」って。
あの時確かに、正直の気持ちで答えました。
「おばあさんの家のそばにある庭を描きたいです。」
雑草だらけの、誰も手入れしていない野生の庭でした。飼い主のない猫たちが勝手に住んでいます。季節が淡々と庭の風景を塗り直します。生命が生まれて死んでいく。人為的な意味など何一つも持っていない、無造作で、幸福で、自己完結の小さな世界です。子供時代の私にとって、あの庭は世の中で一番優しくて安全な場所でした。時間の流動は穏やかて、「外側」からの侵食さえも入ってこない、誰にも干渉されていない場所でした。
子供の自分は「庭」に憧れました。
やはり、あの庭こそ自分の中の原初の風景みたいなものです。あれからの絵画全部、これからの絵画も全部、「庭」を作るためのものです。これを前提として制作を続けます。
絵を描く行為は、自分にとって、日記を書く行為とほぼ同じ意味を持ちます。周りに起きたこと。夢で見たこと。感じたこと。好きなこと。…日常生活の一つ一つのかけらを描き止め、保存します。「庭」という絵画空間の中に、ぎっしり詰めます。その対象、いわゆるモチーフは、目に見えるものだけではなく、目に見えないものも含めます。
描きたいものは、木々、星、森、夜の海、雷鳴、芽吹。描きたいものは、手、顔、両足、血潮、頭の中。描きたいものは、満足、喪失、不安、喜び、寂しさ。描きたいものは、人間と人間の出逢うこと。皆を、丁寧に、丁寧に、私の庭に入れて、現実から虚構へ、一瞬から永遠へ。
庭は今日もそこにあります。
2023年
武蔵野美術大学造形学部油絵学科油絵専攻 卒業
2024年
グループ展 「wonderland」 下北沢アーツ
個展 「夏の眼であなたを見ている」 下北沢アーツ
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