WHAT CAFE EXHIBITION vol.32 | 天王洲のアートスポット WHAT CAFE

展示レビュー

WHAT CAFE EXHIBITION vol.32

WHAT CAFE EXHIBITION vol.32 展示レビュー

2023/12/24 | レビュアー:牛島愛

都内屈指のアートタウン、天王洲アイルにあるアートギャラリーカフェ「WHAT CAFE」にて開催された「WHAT CAFE EXHIBITION vol.32」をご紹介。本展は2023年12月9日 ~12月24日まで開催され、アートキュレーター野間博尊氏と現代アーティストyutaokuda氏がセレクトした20名のアーティスト約180点の作品が展示販売されました。出展アーティストの作風は多岐に渡り、イラスト、ペインティング、ミクストメディアなどあらゆる作品が展示されました。

WHAT CAFEは現代アートの魅力を多方面から楽しめるカフェアートギャラリーです。若手アーティストとコレクターやアートファンを繋げる場所として、これまで数多くのグループ展を開催しています。本展覧会のテーマである「ART IS…」にはWHAT CAFEを訪れる人々が自身の「アートとは」を見つめ直し、新たな発見を生み出していただける空間を提供したいという思いが込められています。<br /> アートに馴染みがある人も、アートギャラリーに訪問するのが初めての人でも、気軽に訪れる事ができるのが特徴です。アートギャラリーは敷居の高いイメージがありますが、WHAT CAFEは開放的で心地よい空間が広がり自分のペースでアートを楽しめるのが魅力です。<br />

HARUNA SHIKATAさんは感情や情報の上書きをテーマに、脳に蓄積された情報が重なり合うさまを視覚化しています。現代社会では洪水のように大量の情報が流れ込み、その情報が渦のように脳を巡ります。その渦めいた情報や感情があらゆる色や形で表現される様子は、世界に溢れる多くの情報が脳を目まぐるしく回っているように見えます。<br /> また、グラフィカルに表現した作品は、その渦めいた情報や感情をどうにか取捨選択し、自分にとって何が大切なのかを見極めているようにも感じます。スマートフォンが普及している現代社会では簡単に検索ができ、意図せず一瞬にして多くの情報に触れてしまいます。そういった現代社会の中で、情報に踊らされず自分の判断基準や価値観を持つことの大切さを思い出させてくれます。<br />

データとして脳に蓄積されても、日々を生きる中で常に情報や感情が更新されていき、結果的にインプットされている情報はごく僅かで、何も考えずただ目の前の作品に向き合うなど、ノイズを強制的に遮断する時間も大切だな、とHARUNAさんの作品を観て感じました。ひとたびスマートフォンに触れてしまうと瞬時に情報と触れてしまうので、スマートフォンの電源を切り目の前のことに向き合うことは自身の心を見つめ直すきっかけになるかもしれません。

展示会場にはポップなイラストや抽象度の高い作品など多くの作品が並ぶ中、集合体で描かれたNoriyuki.さんの作品に目が留まりじっくりと観察すると、集合体一つ一つに顔がありました。なんとその個体には「どっとちゃん」というチャーミングな名前があり、ひとつひとつ違う存在で細胞をイメージしています。人間もそれぞれ個性があるのと同様に「どっとちゃん」も表情や体の形がそれぞれ異なります。自分が大きな集合体の一つとして、「一つでも欠けたら成立しないからあなたは孤独ではないし、必要とされないことはない」ということを作品を通して伝えています。

Noriryuki.さんの作品を観ていると「愛」と「尊重」が大きなテーマになっていると感じます。どっとちゃんも現代に生きる私たちと同様に、個体それぞれが互いに影響を与え合い支え合っているように見えます。ひとりひとりの個性を愛し、尊重し合い、大きな集合体の一つとしてそれぞれが輝く姿はとても豊かな世界に感じます。愛らしいどっとちゃんの世界を見て、隣にいる誰かに少しでも優しく接していきたいなと思いました。Noriyuki.さんの作品はどっとちゃん以外にも様々な人間や動物をモチーフにしたキャラクターもあり、その作品は会期中に公開制作されたそうです。

続いてLINEスタンプやXで見覚えのあるWAKARUさんの作品を鑑賞。SNS発信で人気に火が着いた作家さんで、これまでデジタル作品を中心に制作していましたが、コロナ禍をきっかけにキャンバス作品を制作するようになったそう。<br />

自分の描いた作品が幸せな空気感を届け、観た人に笑顔になってほしいという想いがありデジタルの作品もキャンバスの作品も一貫してニコニコした表情で、作品を見ていると自然と微笑んでいる自分がいました。クスッと笑ってしまうユーモアさがWAKARUさんの作品の特徴で、リアルな絵を通しても幸せな空気感が広がっていました。<br />

次に目に留まったのが沖縄県出身の作家、知念岳さん。自身のアイデンティティやルーツである沖縄の固有の人や植物、琉球民謡をモチーフに制作されています。日本古来の岩絵具で描かれる作品は奥ゆかしく繊細で、そして力強い印象があり、グッと作品に引き込まれます。沖縄の伝統や文化を継承し、現代的な解釈で表現する知念さんの作品からは沖縄文化への愛を感じます。<br />

WHAT CAFEは月に1回の頻度で展覧会が開催され、いつ訪れても新しい作品に出会えます。展示されている作品の大きさや金額も幅が広く、初めてアート作品を購入しようと検討している方にも最適な場所です。展覧会場は開放的で誰でもオープンに入れる場所なので、ふらっと立ち寄って時間があればじっくりと鑑賞することもできます。気兼ねなく自分のペースでアートに触れ合えるWHAT CAFEで、自分の感性と向き合ってみるのはいかがでしょうか。