WHAT CAFE EXHIBITION vol.33 | 天王洲のアートスポット WHAT CAFE

展示レビュー

WHAT CAFE EXHIBITION vol.33

『From here to eternity』 展示レビュー

2024/01/16 | レビュアー:吉田山

天王洲のアートギャラリー&カフェ「WHAT CAFE」で開催されていたWHAT CAFE EXHIBITION vol.33 『From here to eternity』の振り返りの記事である。<br /> <br /> この展覧会の内容としてはTERRADA ART AWARD(以下、アウォードと記載)の第1回目である2014での受賞者アーティストにフォーカスを当てた振り返りの企画となり、展覧会タイトルであるFrom here to eternityは1950年代のアメリカの小説のタイトルであり、この小説の日本語訳では『地上より永遠に』となっている。出展作家は、賀門利誓、久保田沙耶、黒田恭章、興梠優護、小谷里奈、榊貴美、須永有、財田翔悟、水木塁、山本雄教(敬称略・五十音順)。

この展覧会は同時期に開催されている同じアウォードの4回目である『TERRADA ART AWARD 2023』の入選者展と連動しており、10年前2014年と2024年の10年間を想像させられる仕掛けとなっており、このアウォードの振り返りと継続の意志とも受け取れる。<br /> <br /> 作家それぞれの10年の変遷を展覧会で垣間見ることになる。筆者が展覧会をみた順番に記載していく。<br />

榊貴美は1983年和歌山県生まれ。2012年東京造形大学の大学院を修了し、2014年にアウォードに入選。当時の入選作品であるペインティング作品も展示されている。

2014年の当時から『子ども』が作品のテーマとなっており、その『子ども』を考察し続け描かれるミステリアスさが、子どもの目は描かないことや、油絵やアクリルを組み合わせて描かれる絵画制作の独自さと組み合わさっている。その後、2024年の新作まで一貫して『子ども』について10年描き続けるこのでの深化を見た。<br />

興梠優護は1982年熊本県生まれ。2009年に東京藝術大学大学院を修了し、人体モチーフを軸にした抽象的なペインティング作品を数シリーズ展開している。

こちらも榊と同じく、1つのテーマを中心に様々な絵画の方法を追求している。それぞれのシリーズの完成度から10年という時間の広がりと長さを想像することができる。

黒田恭章は1986年生まれ。2012年武蔵野美術大学大学院修了し、糸から布を織るという行為に様々なテーマやコンセプトやプロセスを設定し編み込む作風が受賞から一貫している。

入選作品は実物が展示してあり、草木染めを使用し糸なのでエイジングや退色があり、作家の意図でもあるという。このように制作後10年が経過した作品や経年変化をギャラリーでみることは稀かつ、糸や布のメディアとしての恒久性も実感できる。

賀門利誓は1988年大阪府生まれ。京都にて染色を専門に学び、日本の染色技法と染色科学から編み出された技巧によって、独自の写真作品を展開している。染色された細かい布をパネルに貼り付けていくという写真機のプロセスとは真逆ともいえる室内でのかなりの時間を要する作風で2014年に賞を取り、その後も同じ方法を突き詰めた作風と共にコンセプトを展開し、別の素材やメディアで展開する長尺の映像作品や陶器の作品シリーズが増え、10年の中でドラスティックな変化が起きていることを鑑賞できる。

山本雄教は1988年京都府生まれ。2010年成安造形大学卒業、2013年京都造形芸術大学大学院修了。1円玉と和紙を使用して制作された当時の受賞作品が飾られている、基本的には1円玉という日本通貨の最小単位を素材として用いて、まさにミニマムアートと言える作品を展開しており、その方法は継続して今も制作されている。海外での展示の際はその国の硬貨を使用した作品も展示されていた。

財田翔悟は1986年神奈川県生まれ、2014年東北芸術工科大学大学院修了、徹底的に黒色の表現を追求する姿勢と近しい人物、おそらく家族を描くスタイルが10年間で追求されていることを鑑賞できる、黒い人物画なので少しダークな質感ではあるが近年では猫の平面作品や立体物も制作されているようで、10年の流れを感じる展示物だった。

小谷里奈は1984年東京都生まれ。2012年多摩美術大学大学院修了し、2014年から一貫して風景画を手がける。受賞作品も展示してあり、風景や植物を画面の中で再構成しシルエット以外の部分を着色した独自の光の描き方を展開している。近作でもその画法は継続し、大きな作品1枚の制作に1年はかかるというその鍛錬を垣間見ることができる。

水木塁は1983年生まれ。京都市立芸術大学卒業、同大学博士号取得。この展示の中では異質な展示であり、近作のコロナ禍でニュースを騒がせた新宿の若者文化を写しとるシリーズのみの展開によって過去を振り返ることへの興味がないことを表明している。作家自身のストリート文化の考察や、ティーンエイジャーにとっては10年は長すぎることのリアリティの無さすらも想像し、このシリーズのコンセプトのみの展開となったのかもしれない。<br /> <br />

久保田沙耶は1987年茨城生まれ。東京藝術大学大学院修了後、同博士号取得。瀬戸内国際芸術祭の出展作品「漂流郵便局」で広く知られる作家。2014年の入選作品は組作品の片側のみ展示されており、紙に線香で焼きを入れることで動物の骨格を描いている平面作品である。その後もこの10年の中で様々な表現方法に取り組んでいたことがわかる多様な作品が飾られていた。例えば拾ってきた石に起毛を施した彫刻作品等。

アウトプットは多様だが、この10年間の作品に一貫しているのは、脱作家性をテーマとした作品作りであることが、10年間の作品が並ぶことで見えてくる。

須永有は1989年群馬県生まれ。2014年東京芸術大学卒業、 2017年東京芸術大学大学院修士修了のペインター。当時の受賞作品も展示されており、力強く描かれたキャンバスの切れ込みと作家自身の後ろ姿を描いた平面作品のそのワイルドさを10年越えた今でも体感することができる。近作でも一貫した強い描き方と影を描くことを鑑賞することができる。

様々なアーティストの10年間を見た。補足しておくと、このように平面作品が多いのは、このアウォードの第1回目2014年の応募条件に『絵画、写真、版画などの平面作品で、寺田倉庫にて保管が可能な作品』が書かれていることに由来しているようだ。<br /> <br /> なお、本展と連動して別会場で開催していた「TERRADA ART AWARD 2023 ファイナリスト展」は、全て映像作品やインスタレーションと呼ばれる一つの部屋や空間全てにその作家の世界観を反映させる方法を用いている。インスタレーションは1970年代にはアートシーンに登場し普及しており、2014年にはもちろん存在しているので、アーティストによってはインスタレーションや映像作品の作品を展開しているドラスティックさもこの展示の面白さと言える。<br /> <br /> このように10年前に同じアウォードで入選し10年経過したアーティストの変遷や作品自体を知る機会はとても稀な機会だと思う。