陶作家。1989年、愛知県生まれ。名古屋芸術大学陶芸コース卒業、多治見市陶磁器意匠研究所修了。現在は、愛知県瀬戸市に工房を構えている。
主な受賞歴は、2020年、台湾国際陶磁ビエンナーレ 入選、2021年、第12回国際陶磁器展美濃 銀賞など多数。作品は、 京畿陶磁美術館(韓国)、新北市鶯歌陶磁博物館( 台湾)などに所蔵されている。
陶芸家である酒井智也は、知らず知らずのうちに埋没してしまった大切な記憶を再び取り戻していくために作品を制作している。それゆえに、作品は何か感覚に訴えかけるような不思議な力を放ち、鑑賞者を引き付ける。
インターネットやSNSなどの情報革命により、私たちは日々情報のシャワーを浴び続けている。止むことなく強いられる情報の取捨選択の末、不要と判断された情報は、暗い排水溝の中へと吸い込まれていく。
しかしそれとともに、本来ならば個人を形成するような記憶さえ、気づかぬうちに何かと混ざり合い、抜け落ち、沈んでいるのではないか。
酒井は、ロクロでの制作を瞑想のようだと表現する。
ノイズが鳴り響く混沌とした頭の状態を静かに整理し、再び自己を取り戻していく行為である。
ロクロに向かって、無意識に手を動かす。
そこで浮かび上がる、抽象化・単純化された形体は、知らず知らずのうちに忘れ去っていた、何か思い入れがあったはずの景色、アニメ、映画のシーンなどのイメージ、それらが多層的に重なったものである。
陶土を通してそれらをなぞらえた身体の痕跡は、粘土の可塑性によって残され、そのひとつひとつが、作品を構築するパーツとなる。
のちに脳内に具体的なイメージが立ち現れたとき、今度は意識的にそれらを再構築することで作品は完成する。
酒井にとって制作とは、自己が何によって作られてきたかを表す象徴であり、また自己を保つ手段でもある。アーティストの生きた証拠、あるいは時代の記憶を世に提示することが、今生きているという実感へと繋がっていく。
そうして出来上がった作品は、鑑賞者にどんな影響を及ぼしていけるだろうか。
酒井は、作品が彼らにとってもまた、何らかの形で自己との繋がりを呼び起こし、埋没していた記憶を呼び起こすものであることを願っている。
(B-OWND)
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